
この記事のポイント
- イスラエル軍が2023年10月7日の残虐行為の記録映像を一般公開する案を検討中と現地報道。
- 発端はガザでの自軍の行為を批判的に描いたドキュメンタリーが国内で招いた激論。
- 遺族への配慮と情報戦の是非がぶつかり、公開判断は社会の分断を映している。
軍が「残虐映像」の公開を検討
イスラエルの複数のメディアによると、イスラエル軍(IDF)の内部で、2023年10月7日にイスラム主義組織ハマスがイスラエル南部を襲撃した際に記録された残虐行為の記録映像、いわゆる「残虐映像」を一般に公開すべきかどうかが議論されている。きっかけは、ガザ地区でのイスラエル側の行為を批判的に描いたドキュメンタリー作品が、国内で激しい論争を呼んでいることだとされる。
論争の的となった作品
問題の作品は、ヘブライ語で「ネゼク・ロー・アガヴィ」と題されている。戦争報道で多用される「付随的被害(collateral damage、ヘブライ語でネゼク・アガヴィ)」――軍事目標への攻撃に伴って生じてしまう民間人の被害――という用語をひっくり返し、「付随的ではない被害」と名づけた皮肉なタイトルだ。現地では略称の「ナズア」として報じられている。報道では、この作品が米ニューヨークでの上映に向かっているとも伝えられている。
反応は真っ二つに割れている。リベラル系の日刊紙ハアレツは、騒動は結論を変えないとして、ガザでの行為を戦争犯罪と位置づける論陣を崩していない。一方、大衆紙マアリブはこれを「もめごとの映画」と呼び、大手ニュースサイトynetには作品名を政府批判にかけた論考が載った。左派系サイト「シハ・ムコミット(ローカル・コール)」には、イスラエル人が自分自身を見つめる助けになるのは良いことだ、という趣旨の論考も掲載されている。
公開をめぐるジレンマ
10月7日の襲撃映像について、イスラエル軍はこれまで、各国の記者や外国政府関係者など限られた相手に非公開で見せる形をとってきた。全面公開を控えてきた背景には、殺害された人や人質となった人の尊厳、遺族への配慮があるとされる。それが今あらためて公開案として浮上したということは、国際的な批判の高まりに対し「こちらの被害も見てほしい」と訴える情報戦の色合いが濃い。
ただし、こうした対抗策には反作用も指摘される。惨状の映像を並べ合うことがガザの人道状況への批判をそらすとは限らず、遺族の同意なしに公開すれば国内からの反発も招きかねない。現時点で軍が公開を決めたとの確認情報はなく、あくまで検討段階という報じ方が中心だ。以下は一般的な見方だが、最終判断は軍だけでなく政治レベルの意向にも左右されるとみられる。
日本の読者が押さえる点
この論争の特徴は、戦闘そのものではなく「何を見せ、何を見せないか」という記憶と表象をめぐる争いだという点にある。イスラエル社会の内部には、自国の行為を検証しようとする動きと、外部からの批判に対して結束を優先する動きが同時に存在する。一本の映画が政治問題化し、軍の広報方針にまで影響を及ぼしつつある構図は、戦争が長期化した社会の内側を映している。
※本記事はイスラエルの現地報道をもとに、編集部が日本語で再構成したものです。
📰 情報ソース:mako




