
この記事のポイント
- オランダでシリア出身の2人が殺害された事件の容疑者が、責任能力がないと判断されたと法廷で主張した。
- 責任能力が否定されても無罪放免ではなく、オランダには治療と収容を組み合わせたTBSという独自の処分制度がある。
- 鑑定はあくまで判断材料で、責任能力の最終判断は裁判所が行うため、審理は長期化する可能性がある。
オランダで起きた、シリア出身の2人が殺害されたとされる事件の審理で、逮捕・起訴された容疑者が「自分は精神鑑定の結果、責任能力がないと判断された」と主張していることが、オランダの現地報道で伝えられました。オランダの通信社系ニュースサイトNU.nl(ヌー・エヌエル)などが報じたもので、事件そのものの残虐さに加え、刑事責任をどう問うのかという論点が浮上しています。
なお、本記事の時点で公になっているのは「容疑者側がそう述べている」という事実関係までです。裁判所が最終的にどう判断するか、鑑定の具体的な内容がどのようなものかについては確定した情報が乏しく、以下は一般的な制度の説明を中心に補足します。
「責任能力なし」とはどういう主張か
オランダ語の「ontoerekeningsvatbaar(オントゥレーケニングスファトバール)」は、日本語の「心神喪失」「責任能力なし」にあたる法律用語です。犯行時に精神疾患や重度の障害があり、自分の行為の意味を理解できなかった、あるいは行動を制御できなかったと認められた場合、その人は刑事責任を問えないとされます。
重要なのは、これが「無罪放免」を意味しないという点です。オランダでは責任能力が否定された、あるいは著しく限定された被告に対し、TBS(テーベーエス)と呼ばれる処分が科されることがあります。正式名称は「terbeschikkingstelling(政府の管理下に置くこと)」で、刑務所ではなく高度な警備体制を敷いた専門施設に収容し、治療を施しながら社会復帰の可否を定期的に審査する仕組みです。期限は当初2年ですが、再犯の危険性が残ると判断されれば延長が繰り返され、事実上長期にわたる身柄拘束になるケースもあります。日本の医療観察制度に近い発想ですが、オランダのTBSは適用件数も制度の存在感も大きく、オランダ司法の特徴としてしばしば言及されます。
鑑定は誰が行うのか
オランダでは、重大事件の被告について精神鑑定を行う専門機関として、アムステルダムにあるピーテル・バーン研究所(Pieter Baan Centrum)が知られています。裁判所の求めに応じて被告を一定期間観察し、精神状態に関する報告書を提出する国立の施設です。ただし、鑑定人の意見はあくまで裁判所の判断材料の一つであり、最終的に責任能力の有無を決めるのは裁判官です。被告側が「責任能力がないと判断された」と述べたとしても、それがそのまま判決に直結するわけではありません。
シリア出身者をめぐる事件という文脈
オランダは2015年前後のヨーロッパ難民危機以降、シリアからの難民を相当数受け入れてきました。庇護申請者の受け入れ施設の不足や、地域社会との軋轢は、近年のオランダ政治で最も争点化しているテーマの一つです。こうした状況下で、シリア出身者が被害者となった殺害事件は、移民政策や治安をめぐる議論と結び付けられて語られやすい性質を持ちます。
一方で、被害者や容疑者の出身国と、事件の動機や責任能力の問題は本来は別の話です。現地報道でも、事件の背景が政治的な文脈にあるのか、それとも個人的な事情や精神状態によるものなのかは、慎重に扱われるべき点とされています。日本の読者としても、続報を待って判断するのが適切でしょう。
今後の見通し
オランダの刑事手続きでは、正式な審理に入る前に「pro-formazitting(予備的な審理)」が複数回開かれ、そこで捜査の進捗や鑑定の状況が確認されるのが通例です。責任能力が争点となる事件では、鑑定報告書の内容をめぐって検察側と弁護側が対立し、審理が長期化することも珍しくありません。判決までには相応の時間がかかると見られます。
※本記事はオランダの現地報道をもとに、編集部が日本語で再構成したものです。
📰 情報ソース:NU




