
この記事のポイント
- 先住民を「原始的」と表現した議員の発言に、オーストラリア国内で強い批判が集まっている。
- 本人は「気分を害したなら遺憾」と釈明したが、条件付きの非謝罪的な言い回しだと指摘されている。
- 「原始的」は入植の正当化に使われた歴史があり、単なる失言以上の重みを持つ言葉とされる。
先住民を「原始的」と表現、批判が噴出
オーストラリアの右派政党「ワン・ネイション」を率いるポーリン・ハンソン上院議員が、同国の先住民(アボリジナルおよびトレス海峡諸島民、英語では「First Nations」と総称される)について「原始的(primitive)」という趣旨の表現を用いたとして、強い批判を浴びている。現地報道によれば、ハンソン氏はその後、自身の発言によって傷ついた人がいるのであれば遺憾だ、という趣旨の釈明を行った。
ただし現地では、この釈明が「もし気分を害したのなら(if I caused offence)」という条件付きの言い回しであった点に注目が集まっている。英語圏の政治の場では、この種の表現は「非謝罪的謝罪(non-apology apology)」と呼ばれ、発言そのものの誤りを認めるのではなく、受け手の反応に責任を転嫁する形式だと批判されることが多い。今回も、発言の撤回や内容の否定にまでは踏み込んでいないとの見方が出ている。
ポーリン・ハンソンとは何者か
ハンソン氏は1990年代に「ワン・ネイション」を創設し、移民制限や多文化主義への反対を掲げて注目を集めた政治家だ。日本でいえば、長年にわたり物議を醸す発言を繰り返しながらも一定の支持層を維持し続ける、右派ポピュリストの代表格にあたる。オーストラリアの連邦議会は下院と上院(Senate)から成り、上院は比例代表に近い仕組みのため、小規模政党でも議席を得やすい。ワン・ネイションはこの構造を背景に、少数ながら議席を確保し、法案の行方を左右する「キャスティングボート」を握る場面もある。
なぜ「原始的」が重い言葉なのか
オーストラリアの先住民は、数万年にわたりこの大陸に暮らしてきたとされ、世界でも最古級の連続する文化を持つと評価されている。一方で英国による入植以降、土地の収奪や、子どもを家族から引き離した「盗まれた世代(Stolen Generations)」など、深刻な人権侵害の歴史がある。こうした歴史の中で、先住民を「未開」「原始的」と位置づける言説は、入植の正当化に用いられてきた経緯がある。そのため「原始的」という語は、単なる失言にとどまらず、差別の歴史そのものを想起させる言葉として受け止められやすい。
近年のオーストラリアでは、先住民の声を憲法に位置づける「ボイス」構想をめぐる国民投票が2023年に否決されるなど、先住民政策は社会を二分するテーマであり続けている。今回の発言への反発も、そうした継続的な緊張を背景としていると考えられる。
今後の見通し
現時点で、発言をめぐって議会内での正式な処分や調査に発展するかどうかは明らかではない。一般論として、オーストラリアの上院では他議員からの発言撤回要求や動議が提出されることがあるが、本件がその段階に進むかは続報を待つ必要がある。日本の読者にとっては、多文化社会における「謝罪の作法」と、先住民の歴史をどう言葉にするかという問題が、政治の言語をめぐる論争として表面化した事例として読むことができるだろう。
※本記事はオーストラリアの現地報道をもとに、編集部が日本語で再構成したものです。
📰 情報ソース:The Conversation




